TOP満室経営のツボvol.80

関西の大家業をもっと楽しくする

ヒント集

vol.80

2018.02.19

かぼちゃの馬車事件に思う②。
新規ビジネスを鵜呑みにしないKPI

前回は、かぼちゃの馬車の事件と、サブリース・シェアハウスについて論じました。本件をもって、すべてのサブリースが悪いとか、すべてのシェアハウスが良くないというのは言い過ぎだという議論です。
今回は、このかぼちゃの馬車で「入居者の転職斡旋フィーが入る」という新しい概念がありました。これをどう読むかという収益物件のオーナーのポイントです。

写真はイメージです

名のある出版社が
本まで出しているから大丈夫?

 かぼちゃの馬車の経営者は「今までにない画期的なビジネススキーム」として「家賃収入がなくても、空室でも儲かる新しいスキーム」として、「入居者の転職フィーで稼ぐ」ことをうたっていました。
 なんと名のある書籍会社で本にまでしていました。あんな有名な書籍会社で本まで出しているから大丈夫だ・・・本ぐらいお金を出せば出版できるのです。こうした事件でTVCMをしていたテレビ局や、本を出していた出版社、あるいはその本の宣伝を乗せていた新聞などが責任をとることなどまずありません。ビジネスの中身を誰も保証しているわけではないのです。そもそも本など表現の自由があり、ある程度、「良い話」「都合の良い事例」「素晴らしいドラマ」を書いても許されるものなのです。

入居者の転職斡旋フィーは
成立するのか

 では、転職時に紹介料を獲得することは可能でしょうか。それは可能です。
 つまり人材斡旋というビジネスそのものがちゃんとマーケットを作っています。かれらと戦い鎬を削る覚悟があれば、ちゃんと年収の25%の紹介料を獲得することは可能だと思います。そういう仕事はたしかにあるのです。
 でもここで冷静に考えてみましょう。相場より安く、狭い部屋にあえて住む学生中心の入居者。転職や就職の市場で高く売れるのでしょうか?年収の25%という高い金額を払ってでも欲しいという企業はどのくらいあり、そこに誰が営業をかけ、どう提案するのでしょう。これはたやすいことではありません。
 かつ、一度斡旋してしまえば、その人をほかにさらに斡旋というわけにはいきません。早期退職は斡旋フィーがもらえなくなります。違約金を斡旋側が負担するケースもあります。この市場で闘うことはそう容易ではないのです。
 私自身、こうした転職マーケットの仕事をしておりましたが、これはこれでとても大変です。しかるべきキャリアカウンセリングなど行い、資格取得等を支援し、企業に提案営業もしていかねばなりません。人材派遣会社や転職のヘッドハンターたちが、そう簡単にこの市場で生きているわけではないのです。

思考停止がよくない

 もっともよくないのは「思考停止」だと思います。
 「サブリースだから空室があっても大丈夫」というのは、「この物件で満室になるかどうか」を考える事をやめています。サブリースはあくまで空室リスクヘッジの打ち手であり、不動産投資をする以上、そのビジネスの成立要件は
「平均賃料」×「入居戸数(=「全体戸数」×「入居率」)×「1-滞納率」
が、収益であり、これを投資で割れば利回りであり、これをランニングコストと税金を引けば利益です。入居率が悪化すれば収益は悪化し、このリスク軽減がサブリースに過ぎず、この数式が成り立っていなければ、すぐにも損益分岐をはずします。
 「サブリースだから安心」というわけでもなんでもなく、このビジネスが破たんすれば、今回のように「サブリース賃料の見直し」→「サブリースの停止」→「サブリース会社の破たん」となります。
 「人材斡旋という新ビジネススキームがあるから大丈夫」も思考停止です。
 月々のローン支払いが賃料収入の50%でサブリースで10%、管理料で5%払っていれば、25%の家賃滞納や空室があれば逆ザヤになります。7万円の賃料で10部屋だとして、サブリース代10%、管理料5%、ローン支払いが35万円なら、2.5部屋はカラータイマーがなります。半分空いていたとか4割しか空いていなかったという話ですから、毎月20万円以上の副収入が必要となります。年間20万円×12か月=240万円足りません。では、なんとかひとりの就職斡旋に成功したとして、年収400万円で、彼らの言う「年収の25%では100万円しか稼げません。3人以上の斡旋成功が一棟で毎年必要となります。しかも、その斡旋事業にも人件費がかかります。・・・計算が合わないのです。そして、斡旋成功した入居者に出て行ってくれとも言えない。

副収入を本業にしている人もいる

 人材斡旋業は、さきほども述べたように、それを本業としているプレイヤーが別にいます。彼らも人件費をかけ、投資を行って戦っています。それは彼らが本業として頑張っている世界です。
 似たような話で、コインランドリーの話があります。「説明会に行ったら、うまい儲け話を聞いた」「コインランドリーを副業にしている大家が儲かっているらしい」こうした動機で加盟料を払い、機械のリース代を払い、コインランドリー事業を始める。
 しかし、そこには、本業としてコインランドリーをやっている人もいます。彼らとの戦いです。そう簡単にうまく行くなら、彼らがもっと店舗を増やしているはずです。簡単なビジネスではありません。コスト削減しつつ、営業拡大し、特価セールを行ったりもします。清掃や防犯もしなければなりません。それはそれで「副業」ではなく「事業」なのです。
 「やるな」「あてにするな」と言っているのではありません。本気でちゃんとやらねば、競争に勝てないと思うのです。

駐車場や会議室のシェアリングとの差

 最初から賃貸ビジネスが成り立っているのであれば、例えばそこに自動販売機を置いてちょっと副収入がある、とか、空いている駐車場や会議室をシェアリングしよう、というのは有効です。我々の本業がしっかり成り立っていて、かつ、そこで活かされていないスペースを運用するのですから。
 そうした発想ではなく、別の事業でさらに儲けようということであれば、そこにはそこの「入居率」「滞納率」「家賃維持」などに相当するKPIがちゃんとあるのです。
 当然、立地や環境にもよるでしょう。よい立地や状況であれば、かぼちゃの馬車のビジネススキームでもうまく行っていた物件はあるのかもしれません。しかし、そうした特例を「すべてこれでうまく行く」と判断してしまってはいけないという事例です。
 今回被害に遭われた方には、途方もない借金で苦しんでいる方もいるとお聞きします。本当に大変だと思います。私はそれを揶揄するつもりはありません。こうした方々の悲劇から、被害に遭わなかった方も、投資家として学ぶべきことはあるのではないかと思うのです。