TOP満室経営のツボvol.47

関西の大家業をもっと楽しくする

ヒント集

vol.47

2016.10.06

大衆紙にあおられない。
冷静に社会情勢を見極める「目利き」力

「最近の若者は、新聞を読まずにネットなんか見ているからばかになる」
こんな話を良く聞きます。しかし、実はネットの方が玉石混合ではあるものの情報が多く、新聞のほうがある種偏った報道である事もあります。
収益物件の投資家が気を付けるべき、目利き力について、今回は、論じます。

写真はイメージです

アパート空室率
首都圏で急上昇?

 2016年6月1日の日経新聞で、3月の神奈川県の空室率は35.54%と急上昇したという報道が日経新聞で出されました。様々な評論家や大家さんが、「そら相続税の改正で新築賃貸を建て過ぎて、とんでもないことになっている。だから建設を規制した方がいい」との論調が盛り上がりました。「サブリースで大家を騙して、とんでもない」といった意見も含めて、結構盛り上がっています。さて、この話はどこまで本当なんでしょう?

神奈川で1/3も空室があるという
事象は起こっていません

 さて、本当に神奈川県で今、こんなに空室が激増しているのでしょうか?実際、増えつつはありますが、先日も神奈川でたくさんの大家さんとお会いしましたが、そんな事は起こっていません。
 たしかに青山大学が都心にキャンパスを戻す等、大きなマーケット変化はあります。たしかに、新築建設も地方よりも元気があります。しかし、売られる土地は高いですし、さほど相続税対策で対処すべき空き地が多いエリアでもありません。私は地方で講演もしていますが、地方のほうが当たり前のように空室が多く、状況は過酷です。

報道は、先に「言いたい事」がある

この話。初めにストーリーがあるのです。「人口減少」なのに「サブリースで建てまくる」から、「空室が多くなって社会問題」という記事を書こうと先に記者は考えます。
 そこに象徴的な「空室が増えた」というようなデータが出た。
 その結論ありきで、書いているのです。大衆紙というのは専門誌ではありませんので、強いトピックスをエビデンスとして、そこから社会をタイムリーに切り取り、そこをクローズアップして意見を述べるのが仕事です。
 これまでこのコラムでも述べていますが、大筋は確かに「人口減少」「物件はそれでも建つ」「だから空室は増えて行く」のは事実です。サブリース会社が、家賃見直し条項があることもきちんと説明すべき話です。
 しかし神奈川県では、「人口は現状も増えており、世帯数も増えている」中、「消費税アップ以降分譲建設は冷え込んだが、相続税改正が追い風で賃貸新築建設は堅調。とはいえ前年イーブン程度」であり、記事のように神奈川で極端に空室が増えた、という事実はありません。
 このデータはタスという研究機関が、アットホームの掲載物件数の推移からある種のロジックで算出した数字です。実際のローデータは下図の通りです。ローデータをあたると、神奈川県は13ポイントが14ポイントに増加したようですが、関東全域ではむしろ改善傾向にあります。

そんなに変化がない。
けど、木造・軽量鉄骨で悪化

 では新聞記事はどこを取り上げたのか。この空室インデックスのデータは、「木造・軽量鉄骨」と「S造・RC造・SRC造」に分析がさらに分かれます。
 このグラフの「木造・軽量鉄骨」のグラフの後ろの部分を切りだして、「さあ、空室激増」とあおっているわけです。その一方、掲載されていない「S造・RC造・SRC造」のグラフでは神奈川県は改善しているという数字が出ています。
 アットホームのシニアリサーチャーにお聞きすると「そうなんですよ。科学的分析ではこういう数字になったというものに過ぎないんです。タスさんは数字でこう出たと言っているだけで」とお話をされました。おそらく、記者は意図を持って、大変な事として書いていますが、事実はさほど火急な状況ではありません。

むしろ「格差」が問題

 このデータがわかることは、「格差」が進んでいるという事です。「木造・軽量鉄骨」の人気が減り、「S造・RC造・SRC造」の人気が上がっているという事は言えるかもしれません。特に、音の問題です。各メーカーは防音に配慮した技術開発を進めていますが、退去理由で最も大きいのも隣の音がうるさいといった現状。より静かな物件を求めて、「S造・RC造・SRC造」に住む人が増えているという可能性は高いと思います。
 また、「S造・RC造・SRC造」が新築や築浅が多く、それこそ供給が増えている傾向はあります。以前よりも静かで頑丈な「S造・RC造・SRC造」の新築比率が増えれば、築古よりも新築のほうが人気なのは自明の理ですから、木造・軽量鉄骨の数字が短期的に悪化した可能性はあります。
 加えて、アットホームのデータを元にしている事も影響はあります。ホームズとスーモが熾烈な物件数競争を繰り広げ、特に大手は掲載物件数を増やしました。アットホームは掲載店舗数が多く、ロングテールに強いのが特色のサイト。また業者間流通であるアットBBも卓越している。となれば、今年の1~3月に木造を中心とした築古物件の出稿が例年よりもアットホームで増えた可能性はあります。

つまりは「格差」に対する
対策が必要

 このデータが分かる事は、時代の潮流として、「空室が増える」という物件と「空室が改善される」という物件に分かれて行く、という事なのです。
 すなわち、今後世帯数が減り、物件数が増えると、「みんなが一律に空室が増えて行く」のではなく、「特定の物件の空室ばかりが偏って増えて行く可能性がある」という事です。
 たとえ話をします。
 とある街に、ラーメン屋が1件しかなかった。1件しかないけど美味しいので行列がすごく出来て繁盛していた。これがこれまでの「人口増加」「供給不足」の時代です。ところが次第に人口が減って、ラーメン屋が増えた。すると全ての店の売上が一様に減る、のではなく、人気のない不味い店は閑古鳥がなき、人気のある美味しいラーメン屋は相変わらず行列が出来た。
 こんな話です。
 リフォームをしたり、ネット無料にしたり、エアコンを付けたりして、「同じ家賃でもうちの方がいいですよ」という競争が激化する。そうでないとみんなでラーメンの値段を下げて勝負をするような世界になってしまうのです。

裏をとる

さて、このタスのデータ。実は、ネットに出ているのです。つまり、日経新聞を見て「ほんまかいな」と思ったら、ネットで検索すれば、ローデータが出てくるのです。あるいは「ねえ、あれって本当?」と人脈を頼って聞いても良い。真実は新聞報道にあるとは限りません。
 「若者は新聞も読まなくなった。困ったもんだ」と嘆く前に、自ら、「おや?」「あれ?」と思った時に、ネットや会話から裏付けを探して行きましよう。本当に民泊は今も儲かるのか? DIYすれば必ず入居が決まるのか? ポケモンGOは流行っているのか? 様々な世の中の革新は、懐疑的に見ながら、常に「今」を捉えて行く「目利き力」が、収益物件オーナーである皆さんには必要なのではないでしょうか?