関西の大家業をもっと楽しくする
ヒント集
vol.40
2016.06.24
「入居者の質」も資産価値。
今回は、そうした「算数」とは別の部分。入居者の質によって、収益が変わって行くことを解説します。
写真はイメージです
隣人が問題入居者で埋まらない
先日相談を受けた物件は区分所有の収益物件でした。サブリース契約もしていなかった物件で、長期空室。オーナーはずっとローンを払い続けている物件で、相談を受けました。
困ったのは、その空室理由。近隣に問題入居者がいるのです。やっと入居者が決まったと安心すると、短期で退出。なぜかと問い合わせると、隣の入居者からの苦情がすごいのです。
「夜中にうるさい」「挨拶がない」「私の悪口を言っている」などクレーム三昧。ちょっと音を立てると「うるさいぞー」と壁を叩いてくる。廊下でにらむ。犯人は特定されてはいないものの、バルコニーからペットボトルが落ちてきた事も。これでは安定した入居者が確保できないというわけです。
「やっかいな人」が住み心地を下げる
空室が増える昨今、賃料を下げてなんとか入れようとする事は企業努力ともいえます。しかし、そうして何年かすると、すっかり入居者の層が変わって行きます。物件も経年劣化しますが、入居者は歳をとるだけでなく、入れ替わるたびに、どうもおかしな人ややっかいな人が増えてくる。ますます物件の人気が落ちて、空室率が上がり、賃料が下がるという悪循環です。
立地や利便性は経年では変わりませんが、建物の魅力は年々落ちてきます。こうした建物価値だけでなく、「住み心地」のようなものも、次第に入居者の質の低下とともに悪化していないでしょうか?
近隣と揉める。廊下やエントランスでくわえタバコ。ルールは守らない。ゴミ置き場や自転車置き場を汚くする。ますます入居者か集まらない。
「入居審査」は大家としてのラストチャンス
新規入居希望者の申し込みが入ったら、大家たるもの、「本当にこの人を入れてもいいのか」と入居審査を行なう権利があります。昨今は、大家面接などはあまりないと思いますが、書面だけでも十分参考になります。
なんという会社に勤めているのか。その会社を社名と住所で検索してみる。入居者名での検索も有効です。その物件というコミュニティを、どういう人々が住む世界にして行くのかを、オーナーとしてビジョンを持つ事も大切ではないでしょうか?
現在の借地借家法では、ここがラストチャンスです。冒頭の事例でも、問題入居者の退去を促す事は、とても難易度が高く、結局、売る事にしました。それでも重説事項という認識で、簡単には売れませんでした。入口でしっかり管理しないと、困るのは物件オーナーなのです。
メンタルリスクも増えている
企業では、メンタルヘルスの疾患での休職者が増えています。現代はストレスフルであり、もしかしたら、人間は精神的に弱くなっているのかもしれません。
とすれば、入居者がそうした疾患になる確率もあがっているといえます。いくら入口で防いでも、入居後に近隣迷惑をかける人に変貌する事はあるでしょう。また、そうした疾患を理由に退去をさせる事は、差別につながる恐れもあり、被害を立証する等住み心地を維持する難易度は上がっています。
だからこそ、トラブル対応はプロの管理会社に任せ、しっかりと履歴管理をさせ、オーナーとして「住み心地」がどう変化して行くかにも関心を持つべきだと思います。
騒音クレームでの殺傷事件
本当に悲しい事件ですが、相次いで騒音クレームでの殺傷事件が起きました。これも、日頃の管理で何とか回避できなかったかと残念です。物件価値はもちろん下がり、入居率は悪化し、資産価値は凋落しました。
こうした事態を見てもクレーム対応の難易度は上がっており、自主管理では困難な時代になっているともいえます。
「共同住宅なんだから多少の音は仕方ない」「クレームも入っていますので気を付けて暮らしてください」「気を付けて暮らすよう指導しましたので、ご容赦ください」・・・このような表層的な対応では、避けられない事件も起きているのが現状なのです。
だとすれば、大切な資産の資産価値は、建物・設備だけでなく、入居者の質も大切だという認識が必要です。そうした意識を仲介不動産会社にも強く伝え、安易におかしな人を入れないよう指導すべきでしょう。管理料を払い、毎月の家賃の収納代行をさせるのも、「入れたらもう知らんぷり」にさせないある種の保険ともいえます。
住み心地の良い建物に
区分所有での投資の場合は、だからこそ、周囲にどんな人が住んでいるのか、どんな管理なのかを気にします。他の住戸のオーナーは自分ではないのですから、全体の管理を知るべきでしょう。そして、いつでも売れるように考えておくべきだと思います。
一方、棟単位での収益物件では、その棟という街づくりに参加するといった視点が必要です。空室が気になるあまり賃料を下げ、廊下やエントランスをうろつく入居者が、あっという間に様変わりする前に、どんな住まいにしていくのか。特に女性は敏感で、数年で入れ替わってしまいます。
流行りの民泊も同義です。短期的に稼ぐ事は成功しても、その物件の中を行き交う人々の住み心地はどうでしょう? エントランスや廊下はどんな風景になっていますか。
投資家であり、かつ、街づくりの名士でもある自分が、どんなグランドデザインを志すのか。収益計算という算数と共に、こうした面もゆっくり考えながら、考えて行きましょう。